茎に記された朱銘

日本刀には、柄の中の形である茎に朱色の漆である朱漆によって書かれた銘があり、それを朱銘と呼びます。ある鑑定士の話では、江戸時代のある研ぎ・拭い・目利きの三業を行っていた人が鑑定銘を入れるときに、もともとの茎が残らないほどに大きく磨いてしまった場合には、金がはめ込まれている金象猷銘を入れていたが、もともとの手の付けられていない茎か、または少しでも茎を残して磨いている場合は、朱銘を入れていたそうです。そして、その手法がそれ以降は、常識のようになっていったと考えられます。

その三業を行っていた人の金象猷銘は、彫られている鏨の打ち込みがとても優秀で、金をはめ込んだ後に金の部分がはがれて落ちてくるなどということは、ほとんどなかったそうです。しかし、茎は日本刀の手入れや鑑賞によって、必ず人の手が触れてしまうので、朱銘がどうしてもすり減ってしまうのです。そのため、大名の家の蔵などから出てきた日本刀を写真で見ると、朱漆の文字がはっきり見えますが、現在同じ日本刀を見てもほとんどの朱漆がすり減っていて読めない状態だと考えられます。そのように、本来あった朱銘が現在では見えないような、先人達の記録を不用意に扱ってしまっていることがとても残念です。

ですから、現代は日本刀の博物館などで、名刀を特別に触ることができる場合がありますが、そのような時は、朱銘がはがれないように、十分に注意して扱う必要があります。そのため、出来るだけ茎を触らせないような展示方法が望ましいと思います。しかし、朱銘はとても綺麗で見るべき価値のある、日本刀の一部分だと思います。なので、ある美術館では、朱銘の部分が見えるように、朱銘の部分に小さな窓のある柄を作り、その柄をはめたまま鑑賞するという手法を取っていました。この手法は、朱銘を楽しめながら守っていくという、大変すばらしい考えだと思います。

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